堤未果 『ルポ 貧困大国アメリカ』 (岩波新書, 2008)

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この現実は5年後の日本でもある

 お金を稼ぐために何が必要かを考えると意外な答えにたどり着く。それがお金だ。これはパラドックスではない。チップを持たない者はポーカーゲームに参加できないのだ。しかし、現実には多くの貧困者がこのゲームに巻き込まれ、なけなしの金を失い、負債まで負わされているのが今のアメリカだ。
 筆者である堤未果は米国野村證券勤務中に9・11同時多発テロに遭遇。それを機にジャーナリストに転身。以来、アメリカの新自由主義政策に警笛を鳴らし続けている。本書ではさまざまなデータや現地アメリカ人の声を交えながら市場原理が弱者を切り捨てるアメリカの現状を告発している。
 本書が語るのは、チップを持たずにゲームに参加する方法とその結末だが、その一例としてサブプライムローンが紹介される。一般に住宅ローンの利子は低く、日本国内では4%を越えることはまずない。サブプライムローンも最初の数年こそ低いが、その後は10~15%にまで跳ね上がる。元金が高額になる住宅ローンでの10%の利子は、明らかに借り手の無知を前提にしている。まさに市場原理が生んだ貧困層から搾取する現代の錬金術であり、富裕層の財布を全く痛めずに市場に潤沢な資金を供給するシステムだ。そして、このサブプライムローンに次ぐ問題がアメリカの学資ローンだ。国の教育予算の削減によって大学の学費が高騰。彼らは社会に出た瞬間から多大な借金を抱えており、実にその39%の借金が返済不可能だというのだ。しかも、学資ローンは自己破産に陥っても本人が死ぬか障害者になるか、あるいは軍に入隊する以外に返済免除はない。つまり、アメリカの貧困者の教育は戦争という受け皿の上で成立している。
 本書では他にも福祉の削減が増やす貧困層の肥満や、弱者を食い物にする公共・医療サービスの民営化を伝えている。ポーカーゲームにはまだアメリカンドリームがあるが、現代アメリカという賭場には貧困を生み出すシステムしかないと本書は指摘する。

って、感じの本。

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このページは、k-wataが2008年11月 1日 12:25に書いたブログ記事です。

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