渡辺将人『見えないアメリカ 保守とリベラルのあいだ』(講談社現代新書, 2008)

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日本からの「見えないアメリカ」

 アメリカは不思議な国だ。経済や地域といった対立はあるものの、社会主義や全体主義などのイデオロギーに向かうことはない。しかも、新自由主義のもとで貧困にあえぐ労働者でさえ、自由主義の枠の中で闘うことを選ぶ。だがしかし、そのアメリカも一歩中に入ると決して一枚岩ではない。ヒトが二人いればイデオロギーの対立が生まれるように、自由主義しか選ばないアメリカにも保守とリベラルという二つの対立する立場があるのだ。自由主義しかない中での保守とリベラルとは何なのだろうか。
 それについて、ヒラリー陣営の本部スタッフとして選挙に参加した経験を持つ筆者は、アメリカにあるのは保守とリベラルという二項対立だけではないと指摘する。その影には、理念や論理を優先する「アカデミック」に対し、日々の暮らしや宗教観に流されがちな「土着」という対立が隠されており、アメリカの保守はアカデミック保守と土着保守とに、リベラルもアカデミックリベラルと土着リベラルとにそれぞれ細分化されるという。
 たとえば銃規制の問題を筆者は取り上げる。実はアメリカにおける銃は「自衛の権利」とは別に、ハンティングという伝統文化に根ざした文脈からも語られる。そのため、本来リベラルな民主党支持者がハンティングという暮らしに根付いた伝統文化を守るために銃を養護し、その一方で保守派である共和党支持者が動物愛護というアカデミックな視点から銃規制を求めるという現実に出会う。こうした傾向はスポットライトの当たりやすいシングルイシュー的な問題ほどに顕著化し、その背後に存在する複雑な対立の構図は長い影となって保守とリベラルとを分断すると分析する。そして、それは奴隷制や性差、戦争を巡る是非などさまざまな局面で起きているというのだ。
 本書は、保守とリベラルの対立が上手く機能する限り、自由主義一辺倒のアメリカを豊かな存在にするだろうと評価する。日本からは見えてこないアメリカの不思議を分かりやすく解き明かす現代のアメリカ見聞録だ。

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このページは、k-wataが2008年11月 8日 12:33に書いたブログ記事です。

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