010 「msBerryDAC」の劣化コピーとか

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◎きっかけ
ラズパイというボードPCを使うとネットワーク・オーディオを比較的簡単に構築できる、という話があって、Raspberry Pi Zero Wが10ドルという話もあって、ついでにpHAT DACを手に入れてお手軽にネットワーク・オーディオを構築したのですが、しかしながら「そんなお手軽でいいのですか(良くない!)」圧力がありまして、であるならばと調べてみますと闇の深さに惑わされてつい手がけてしまったのがそもそもの始まりでした。

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◎ICに何を使うのか
ともあれ、手元には「pHAT DAC」があり、ちゃんと音も出ているので選択肢としては、「PCM5102A」系か、それ以外かということになるわけで、現実的には9023か9018が俎上にあがるのだが、まあここはひとつPCM51x2系を作って何が違うのかを比べてみようとなりまして、で眺めてみるとWebにPCM5122を陵辱している作例を見つけ、それが「nabeの雑記帳」の「msBerryDAC」なんですが、何が陵辱かといえば、DACがお客さまの手を煩わせないようにと内部処理で地味にローコストな負電源を作っているのだがその努力を無視するかのごとく外部からバリバリハイコストな負電源を物量にものを言わせて無理矢理供給しようというもので、鬼畜ですかあなたは。

◎msBerryDACのコピーを作ろう
しかしというか、当然のごとく「msBerryDAC」は鬼畜なのですが、そのお値段は同じクラスのDACと比べるとひどくお安いのよ。鬼畜のくせに。がしかしそれでもトータルな印象としてはやはりお高いわけで、その背景にはlinuxを使うというめんどくささがありまして、コマンドベースなのは百歩譲っても、それからも手間がかかるのですよ、linux。なんてったってコンピュータ。
ともあれ、試してみないことには何が違うのかもわからないので、では買うか、と言ったところで在庫はないし、でも回路図は公開されているし、これはきっとやりたい人はどうぞおやりなさいな、ということだと自分勝手な解釈でコピーを作ることにしたわけですよ。

◎問題は結構あった
コピーを作ることを決めたものの問題がないわけでもなく、一番の問題は部品の入手性でして、Digi-Keyで部品検索をするが発振器の入手性が悪いのです。22.5792MHzと24.576MHzの二つを同じシリーズで揃えようとするとほとんど選択肢がなくなってしまうし、ついでに言えばMEMSタイプとか小さすぎて無理だし、あと、OS-CONは秋月で安売りされている奴を使うことにして220uF/16Vにしたし、LPF用の抵抗は200Ωに、ECHUは手持ちのECPUにと、確実にグレードダウンしています。もっと言えば発振器の消費電流が多すぎて(75mA)10Ωに変更したのでフィルタ効果とか無くなっているかも。それと関係ないとは思うのだけど、負電源の電圧調整用の抵抗値も入手しやすい抵抗値に変更した。それ以外はたぶんオリジナルに合わせている。回路パターンはまったく違うけどね。それで部品代だけで考えれば3600円程度になった。冷静に考えるとコピーですらない劣化コピー感満載。

部品 数量 単価 小計
OSC XO 24.576MHZ HCMOS SMD 1 192 ¥192 発振器:標準品±25ppm
OSC VCXO 24.576MHZ HCMOS SMD 1 192 ¥192 発振器:VCXO±50ppm
IC REG SWTCHD CAP INV 6SOT23 1 131 ¥131 正電源→負電源
ADP150AUJZ-3.3-R7 2 130 ¥260 LDO:3.3V
ADP7182AUJZ-R7 1 456 ¥456 LDO:-2.4〜-25V負電源
PCM5122PWR 1 718 ¥718 DAC
FIXED IND 100UH 40MA 4.5 OHM SMD 5 19.1 ¥96 インダクタ
FERRITE BEAD 1 KOHM 0805 1LN 5 10.5 ¥53 FB
RES SMD 560K OHM 0.5% 1/10W 0805 1 13 ¥13 抵抗
RES SMD 324K OHM 0.5% 1/8W 0805 1 16 ¥16 抵抗
RES SMD 200 OHM 0.1% 1/5W 0805 6 98.3 ¥590 抵抗:PAT0805E2000BST1
RES SMD 62 OHM 0.5% 1/10W 0805 1 13 ¥13 抵抗
RES SMD 75 OHM 0.5% 1/10W 0805 1 13 ¥13 抵抗
RES SMD 10 OHM 0.5% 1/10W 0805 1 13 ¥13 抵抗
ECPU1C104MA5 3 90 ¥270 OS-CON
ECHU1H103GX5 4 50 ¥200 フィルムコンデンサ
16SEPC220MD 9 44 ¥396 OS-CON
10μF 3 2 ¥6 セラコン
0.1μF 10 2 ¥20 セラコン
¥3,647

◎基板を作る
さすがにユニバーサル基板を使う気にはなれなかったので基板を作るのだけど、だからといって外注に出すほどのことでもないので、感光基板で作りました。使ったのは両面基板ですが、裏面はベタアースとジャンパー線としたので実質的には片面でやりくりしました。感光基板のお値段は810円(75mm×50mm)でした。これに二面付けしたので一枚当たり405円。
回路パターンはそれなりに気を遣ったつもり。気休め程度だけど。

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◎基板のレジスト
レジストが売ってないのですよ。しょうがないから「ソルダーレジスト補修材」をペタペタと筆塗りして乾かしてオーブン(180℃で10分)で焼いたのですが、一枚目は焼きすぎて廃棄。二枚目は微妙。悔しいのでサンワに生産中止にするなら代替品を用意せよと苦言のひとつでも言ってやろうとHPを開いたらUV硬化型のレジストを発見して、これだよ、これ。サンワわかっているじゃんとうきうきしたところをお値段なんと8500円と、がっかりだよ、おまえ。
やはり時代は基板の外注化なんだろうな。次があれば素直に基板を作ろうと思った。穴開けが地味につらい。0.7mmのドリルを2本潰してしまったしな。基板屋さんなら0.4mmのスルーホールだってお手のものだし。スルピンとか打ち込んでいる私ってなにもの? ばかものなの?

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◎制作費
部品代が3647円で基板が405円、ケミカルがもろもろかかっても200円程度でしょう。合わせて4252円。勝った!(何にだ?) それはともかく、使っている部品は微妙にダウングレードしているから正確には勝負になっていないのだけど、あはは。

◎手ハンダを経て思うに
もう、しんどいし、いやや。
手ハンダを終えた今、事象の一面だけを捉えれば、それは確かに安上がりと言えるのかも知れませんが、異なる側面から見れば、単にリスクに目をつぶっただけのこと。
20年前ならそんなことは思わなかっただろうが、今はちょっと違っていまして、これが大人になるということか。
そうだ、手間賃なのだ。手間賃。導通チェックとか動作チェックとか、手間じゃん。
まあ、好きでやっているのだからいいけど。しかしこれを量産しようとは思わないね。

オリジナルの9880円というお値段は完成品であることを考えると、たとえヘッドフォン回路が不要であったとしても、それでもなおまったく全然お買い得なのだよ。欲しい奴は誰でも買えよ。在庫があれば私も買ったよ、あはは。

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◎音出し
正直に言えば「pHAT DAC」もそこそこ良かったが「msBerryDAC」の劣化コピーは確かに違っている。
I2S経由で音を出すと「良い音」になると言う人がいるが、なるほど「良い音」と言ってしまうのがよくわかる。

話が逸れるが、S/PDIFの同軸伝送が光伝送の登場で駆逐されるかと思いきや同軸が今でも生き残っている理由、それは光伝送がハイサンプリングデータの伝送に対応できていないからであるが、その根源的な原因は光ファイバにはなく、光伝送を電圧に変換する送受信機(トスリンク)の未対応にある。そしてトスリンクの代用として登場したのがUSB。しかしこのUSBもどこかきな臭いにおいがする。それはUSBからS/PDIFへの変換の選択肢が少ないところ。換言すれば、なんでPCM270XとFPGAの二択なのか(あともう一つあったが失念した)ということの中にある種の制約を見て取れる。なんか無理している感じがあるのよね。つまり伝送媒体として何を選んでも何かしら問題が出てしまうのよ。ここで整理する。伝送媒体として現状手に入るのは同軸ケーブル、光ファイバ、それとUSBケーブルがあって、いずれも何かしらの問題を抱えている。
私は本音をいえば同軸が良いと思っているのだけど、現実には96kHzを越える音楽ファイルはほとんどないので使いやすさから光ファイバを使っている。さらにハイサンプリングのデータのためにUSBも用意しているが、そんなには使わない。
で、I2Sについてですが、これは長距離伝送に向かないし、HDMIケーブルを使えば10mまで延ばせるが乗っかるノイズが半端じゃない。そこに登場したのがラズパイだ。このラズパイの魅力は小さなことがひとつ。ふたつ目が伝送媒体としてLANケーブルが使えること。これは電源供給方法の進化と似ている。かつては電源は1カ所で必要な電圧をすべて作っておいて必要な場所に配線していたが、それが今ではレギュレータの小型化により必要とする場所で必要な電圧を個別に作って供給する方法に変わってきた。基板上にたくさんのLDOが配置されているあれですね。電源の進化を音楽信号と重ねて考えると、同軸ケーブルや光ファイバのタイプは前者に近い。音楽信号をPCや機器の側で用意し、それをアンプに個別に供給するという方法だ。それに対してUSBはやや中間的なところにある。USBケーブルに乗るのはデコードされる前の音楽信号で、USBケーブルの先にある機器でデコードされて音楽信号になる。そしてアンプの側で音楽信号を生成するラズパイは明らかに後者である。LANでつないでアンプの側で音楽信号を生成してI2Sで伝送する。
損失という線で考えればLAN-ラズパイ-I2Sのやり方が理にかなっている。なんだかんだでPCM270Xが広く使われている理由もそこにあるように思う。間に入る何かは少ない方が良い、というわけでラズパイが良いのはなるほど納得できる。理屈からいえば。

そう、結論から言えば「msBerryDAC」はなんだか良い感じなのよ。
劣化コピーでコレなんだから、オリジナルはさぞかし、と思う。

でも、この「良い感じ」にこれからのすべてをまかせようとは思わないのも現状。その理由は不確定要素が多すぎるからだね。ラズパイは小さくてもLinux なのでメンテナンスは必要だし、SDカードによる長期運用にも不安は残る。都度都度のメンテナンスに時間を割くことを考えてれば今はまだUSBや光ファイバで良いかなと思う。やっぱり一度セットしたら以後はノンメンテナンスで使わせて欲しいし、だからこそSDカードだけでもなんとかして欲しいのよな。

ちなみに、MCKを独自に作らない「pHAT DAC」の音はメリハリの効いた音で、私は好きです。特に養護するつもりもないが、ちゃんと聞こえるし、ノイズも乗らないし、再生音として特段の不都合は感じないし、その意味において「pHAT DAC」がダメだとは言わない。クリアすべきところはクリアできていると明言しておきたい。その上で何を上積みしたいのかということだ。「msBerryDAC」はある種の何かを上積みしたい人には有効だろう。しかしそうであるが故にやっぱり手放しでは勧められないなぁ、と思う。だって、linuxめんどくさいでしょ。

◎作るか買うか見ないふりするか

私は好きにした。君らも好きにしろ。


◎動作環境
ハード:Raspberry Pi Zero W
音源:NAS
ソフト:Volumio2
(32bit196kHzへのアップサンプリングはスペック的に厳しいものがある)
  :Moode Audio Player3.7
(24bit96kHzのCPU使用率15%、DSD/2.8MHzのCPU使用率85%)

◎linux関連のメモ
◇SDカードにシステムを書き込む手順
1.SDカードをフォーマット
「SD Card Formatter」を使う。
ボリューム名をメモする。
2.デバイスの確認
ターミナルを起動してコマンド
$ df
と入力する。
ファイルシステムの一覧が表示されるのでボリューム名、SDカードの記憶容量を参考にSDカードのアドレスをメモする。
たとえば、「/dev/disk3s1」とか
あるいはコマンド
$ diskutil list
でも同じようなことができる。
「/dev/disk3」はデバイスファイル名
「s1」はパーティション1の意味
3.SDカードをアンマウント
ターミナルからコマンド
$ diskutil unmount /dev/disk3
と入力する。
で「disk3」をアンマウントできる。
4.SDカードにシステムのイメージファイルを書き込む
「Ether」を使うと簡単
ターミナルのコマンドでも可能
$ dd if=/Users/ユーザ名/Downloads/volumio-2.201-2017-06-13-pi.img of=/dev/rdisk3 bs=1m
・書き込むファイルがある場所:「/Users/ユーザ名/Downloads/」
・書き込むファイル名:「volumio-2.201-2017-06-13-pi.img」
・書き込み先:「of=/dev/rdisk3」「disk3s1」ではなく「disk3」にする。
・「dd」コマンドはマウントされているデバイスには実行できない
・「disk3」ではなく「rdisk3」としているのは意味がある。「r」は書き込みを早くする。

◇コマンド
・「dd」コマンドを処理中に「Ctrl 」+「T」で現状の進捗を表示できる
*「dd」コマンドは書き込み先にファイルがあろうとお構いなしに上書きするので、書き込み先を間違えると取り返しが付かない。なので書き込み先のデバイス名は繰り返し確認すること。
5.microSDカードをMacから取り出す。
ターミナルのコマンドから
$ diskutil eject /dev/disk3
と入力する。

◇初期設定
・Volumio2
http://moode.local/
ユーザー名;volumio
パスワード;volumio
・Moode Audio Player3.7
http://moode.local/
接続先にMoodeを選択して、パスワードにmoodeaudioを入力する。

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