008 Thorens TD190改造:春の陣(負け戦)

トーレンス TD190-1
I wanted to speed adjustment of Thorens TD-190

◎序章
久しぶりにスイッチを入れるがターンテーブルが回りません。ベルトを確認すると伸びていました。
前回レコードを聴いたのが5年ほど前だから、その間にベルトも伸びてしまったのだろう。カップ麺じゃないんだから、とは思うが、消耗品だからしょうがないか。ということで伸びたベルトを手にグーグル先生に販売先を尋ねようとして5年前のことを思い出しました。たしかあのときも久しぶりにレコードを聴こうとして、でもベルトが伸びていたことに気付いて、慌てて交換したのでした。そう。
あれから5年、レコードも聴かずに何をしていたんだろう。ベルトはしっかり伸びていたというのにね。

そんなわけで、お題
「伸びないベルトはないものか?」

◇さっそく結論から
音質的には完敗です。伸びないベルトは手に入りませんでした。
楽をするな、金を出せ! ということですか、そうですか。

動力源をDCモータからトルクを稼げるステッピングモータに変えたことで、ターンテーブル経由でユニット全体にモータの振動が伝わり、低域のハムノイズっぽい音が出力に混ざって聞こえてきます。スピーカーでは気付きにくいのですが、ヘッドフォンで音量を上げると気付きます。
振動対策など、対処療法的にはかなり追い詰めましたが、原因であるモータの振動を解決できず、完全に行き詰まりました。駆動電圧のさらなる低減、シンクロナスモータへの変更など、大技による解決策が必要な予感です。
5年ごとに平ベルトを交換する理由を実感しました。

◎以下、負け犬の遠吠え
▽改造コンセプト
プレーヤーはトーレンスのTD190-1。10年ほど前に購入しました。オートプレイが便利でしたが、スピードコントロールができないのは気がかりでした。今回の改造ではそのあたりも解決したいです。思うだけかもしれませんが、さて。

・平バンドのバンコード化(バンドー化学製)
・プレーヤー出力の平衡化
*バンコードとはバンドー化学が売り出しているプーリー用ベルト。必要な長さに切って熱融着することでベルトになるという便利もの。しかも経年による伸びも少ないので10年寝かしても大丈夫です。たぶん。

▽具体的な改造項目
1.ベルト変更によって減速比が変わるため、速度調節機構を追加
2.搭載DCモータをステッピングモータに変更
3.カートリッジのアースラインの追加(平衡化)

▽オリジナルのThorens TD190-1について
・オートプレイ機能は便利だが、スタート時に針が縁から滑り落ちることがある。マニュアルでのスタートを常用。
・シェルはTD190の専用品。市販品は使えず、シェルコードも交換できない。カートリッジは交換できる。
・ターンテーブルの回転数の調整は、本体内部の基板へのアクセスが必要。しかもターンテーブルを回転させながらの変更はかなり難しい。
 *モータはDUAL社のDC206、制御素子はAN6652。
・新しいベルトを使っている限り音に不満はないが、ベルトが伸びてくるとひどい。
 誰も指摘していないが、ベルトは伸びるし、音も間延びする。
・78回転にも対応。しかしながら必要性は感じない。

▽プレーヤー出力の平衡化
これは簡単でした。ある種のカートリッジでは、その筐体(金属)部分をカートリッジの出力ピン(緑のピン)に直接接続してアースを取っています。この接続を切り離して独立させることでカートリッジのアースとして引き出せます。
cartridge01.jpg

ただし、カートリッジ内部で右(あるいは左)のアース側に接続しているタイプもあり、その改造は無理ではないのかもしれませんが、確実に無茶です。
なお、私が確認した範囲では、対応可能なカートリッジは、シェアーのM44-GやM44-7、オーディオテクニカのAT100、AT120などがありました。個人的にはM44-7よりはAT100の方が好き。
cartridge05.jpg
カートリッジから取り出したアース線はアームに穴を開け、プレーヤー内部に引き入れるのがスマートで良いです。トーンアームを分解できれば話は簡単ですが、分解しなくともやってやれないことはありません。がんばればできます。
写真ではアームに穴が2つ見えますが、シェルに近い側は失敗した穴です。シェルからの距離をある定度取らないと上手くいきません。理由は実物を見るとわかります。
cartridge04.jpg

黒のラインがカートリッジのアースライン。
cartridge06.jpg


▽DCモータをステッピングモータに交換
まず、前提としてオリジナルのDCモータの制御系の再構築は試しましたが実用にはなりませんでした。モータドライバを変更しても挙動は不安定でした。原因はDCモータを分解したとき、モータにダメージを与えてしまったのだと想定されます。
代替可能なDCモータが見つからなかったのでステッピングモータを試したら、案外よさげな感触があったので思い切ってモータを交換しました。秋月で200円で売っていた12V48ステップのやつです。類似品は千石やRSコンポーネンツからも入手可能です。
モータのシャーシへの取り付けは振動を抑制するため、振動吸収性の緩衝材を複数枚組み合わせて対応。また、プレーヤのアースと制御系アースを切り離すため、モータの金属部とプレーヤのシャーシを電気的に絶縁しました。
写真はモータをシャーシに取り付けるための絶縁素材とアルミで作った固定用部品。
Moter01.jpg

Moter02.jpg

Moter03.jpg
モータ側のプーリーは内径12mmのタイプを使用。同じくモータの振動をターンテーブルに伝えないためにもバンコードは1.5mmタイプを使い、テンションをほとんどかけない(わずかにかかる)状態で使用しました。なお、下の写真ではなぜかオリジナルの平ベルトが付いています。
Moter04.jpg
ベルトにかけるテンションを抑えつつも、ベルトがうならない程度にはテンションをかけます。この辺りはベルトを作っては試す、という試行錯誤が必要でした。

課題:
冒頭でも伝えましたが、モータの振動がベルト経由でターンテーブルに伝わり、カートリッジがその振動を拾います。しかもTD190はオート機構を持っているため、ターンテーブルはシャーシ経由でアームとも機械的に連結されています。つまり、モータの振動はターンテーブル経由とシャーシ経由の2つの経路でカートリッジに伝わっており、ユニット全体が振動していることになります。
プーリー側にシリコンのOリングを付ける、ターンテーブル経由の振動をゴムマットで減らすなど、小さな対策を重ねることである定度まで(ヘッドフォンで普通に聞く分には気付かない程度に)は抑えられました。
プランBとしては、シンクロナスモータをPMW制御する方法があり、低電圧で駆動できるモータが入手できれば、結果は期待できるでしょう。トーレンスの他機種でも採用例があるので無理な話ではなさそうです。
ただ、現状もスピーカで聞く分には気にならないし、ヘッドフォンでも音量を上げなければ気にならないレベルなのでその先に進む決心がなかなかつきません。
320がオートエンド機能を電子制御で行っているのは振動対策だったのかも。

▽モータの回転数制御
制御系はドライバにA3967を使用。A4988、DRV8825の同等品です。マルチステップにすれば振動が減ると考えましたが、プレーヤ用途では逆でした。小刻みに動かすことがNGみたいです。電圧も定格の12Vでは動作音、振動ともに大きく、ヘッドフォンでは聞くに耐えられなかったので9Vに変更。
電圧を下げすぎるとモータのトルクが不足します。
TD190のオートスタートはターンテーブルが回転する力を借りてアームを制御する機械式なので、アームを定位置に動かすときにモータ負荷が最大になります。なので電圧を下げすぎるとアームを定位置に動かせないということが起きます。「マニュアルスタートで使う」と割り切れば、それもOKですが、いろいろと複雑です。
なお、9Vにした理由は、9.4Vでは動作音が気になったのと、8V以下ではドライバ自体が動作しなくなるからです。この辺りは微妙な感じです。
最近出たDRV8834であれば2.5Vから使えるので、後で試してみます。
control01.jpg
回転数はArduinoで制御。A0を使うおなじみのアナログ制御です。調整用つまみは33回転と45回転をそれぞれ用意。切り替えスイッチはオリジナルのもの(3接点4回路)をそのまま使いました。78回転は使う予定がないので実装しませんでした。
なお、調整用VRは前後に半固定VRを入れ、調整しやすくしました。

モータの電源はトランスを使ってTD190とは別に用意。大きめのACアダプタのイメージです。スイッチを付けました。電圧制御にはTPS7A4700を使用。この用途にTPS7A4700はオーバースペックかと思いましたが、余っていたので使用。終わってみれば100mV単位で電圧を可変できて好都合でした。
Power01.jpg
トランスで降圧したついでにストロボレコード用のLEDライトを用意。降圧後の交流出力を利用して50Hz(西日本では60Hz)で点滅させました。

●スタート/ストップスイッチとの連動
TD190はオートスタート機能が付いていますがこれは電子制御ではなく、機械制御です。カムとギヤを組み合わせて動くやつです。そのため、スタート/ストップの連動は簡単でした。オリジナルではスタートボタンを操作するとスイッチがONになってモータが駆動し、機械的にトーンアームが動き始めます。なので、このスイッチを利用します。ただし、制御系はArduinoを使うこともあり、スタート/ストップのたびに起動を繰り返すのに不安を覚えたのでドライバー側でスタート/ストップを制御しました。
Moter05.jpg
具体的にはENABLEピンを使います。このピンをプルダウンする(GNDに落とす)と制御系が「有効」に、プルアップ(5Vに接続)すると「無効」になります。
TD190のスタート/ストップスイッチは2回路3接点なので、ストップ時には5Vに接続(プルアップ)し、スタート時に切り離して(プルダウンして)制御しました。この時代の製品らしく、部品には汎用品が多用されていて改造は楽でした。

▽Arduinoのスケッチ
****ここから*****
int x;

int customDelay,customDelayMapped; // Defines variables

void setup() {
pinMode(6,OUTPUT); // Enable → Arduinoの6番ピンへ
pinMode(5,OUTPUT); // Step → Arduinoの5番ピンへ
pinMode(4,OUTPUT); // Dir → Arduinoの4番ピンへ
digitalWrite(6,LOW); // Set Enable low → Low状態でEnable
}

void loop() {
customDelayMapped = speedUp(); // Gets custom delay values from the custom speedUp function
digitalWrite(4,LOW); // Set Dir High → 回転方向をセット、HIGHで逆回転
for(x = 0; x < 48; x++) // 括弧内を48回実行
{
digitalWrite(5,HIGH); // 5番ピンをHigh状態へ
delayMicroseconds(customDelayMapped); // customDelayMapped:μs待って
digitalWrite(5,LOW); // 5番ピンをLow状態へ
delayMicroseconds(customDelayMapped); // customDelayMapped:μs待って
}

}
// Function for reading the Potentiometer ポテンションメータ(VR)を読み込む命令文
int speedUp() {
int customDelay = analogRead(A0); // Reads the potentiometer VRの端子はそれぞれ5V-A0-GNDに接続
int newCustom = map(customDelay, 0, 1023, 50, 2500); // VRの数値 0 to 1023 を50-2500とし、その値を「customDelayMapped」にする
return newCustom;
}
****ここまで*****
webで拾ったスケッチをあれこれ組み合わせ、さらに数値をいじったので出典とかもうわかりません。すいません。
外部ライブラリは使わず、ドライバに信号を送るだけのシンプルなスケッチです。
VR制御の数値は50μsから2500μsで可変としました。
補足説明として、使用するプーリーのサイズにもよりますが、このスケッチでフルステップ、ハーフステップ、1/4ステップ、1/8ステップで使えます。1/16ステップの場合、制御間隔が50μs以下になり、脱調しました。台形制御などで段階的に間隔を詰めていけば動きます。台形制御には興味があったので試しましたがスケッチが複雑になるので、この先は踏み込んでいません。
なお、スケッチではEnableピンをD6に接続してLowにするとありますが、実際は機械制御です。この記述は残しておきたくて残しています。

▽オーディオ出力とアース
出力の平衡化に合わせて出力端子も変更しました。
out.jpg
左右のHot、Coldとカートリッジのアースの5本を5ピンプラグにまとめ、それとは別にプレーヤのシャーシに接続したアースピンを用意しました。

ケーブルは自作です。2心シールド線を2本使って左右のHとC、カートリッジのアースに繋ぎ、それをさらにシールドして熱収縮チューブで覆いました。2心シールドをシールドするシールドはオヤイデ電気で売っていたやつを使いました。このシールドがシャーシアース線になります。
プレーヤー側ではアースループができていないように注意しましたが、フォノイコライザ側の入力端子部分でカートリッジのアースをシャーシに落とせない場合、フォノイコライザ内部でアースループができてしまいます。その場合は入力ラインをシャーシに這わせるなど、ループを小さくする配慮が必要になります。

◎おわりに
機械的には安定しています。ステッピングモータに変えたので当然ですね。
繰り返しになりますが、モータの振動ノイズは消えていません。
それでもBGMとして聞き流す分には気にならないと強がることにしました。

2016年5月1日

◎追記:ノイズ軽減の試み (2016年6月22日)
▽ノイズの発生とそのピックアップ経路の見直し
ノー他由来のノイズが音声信号として出力されてしまう件について検証しました。今まではモータノイズ→ベルト→ターンテーブル→針という流れだと思っていたのですが、もう一つ、モータノイズ→シャーシ→アーム→針という経路もあることに気付きました。
モータとシャーシは防振ゴムで振動を軽減していますが、それでもノイズはシャーシに伝わります。この段階では振動はシャーシに広がることで薄まるのですが、シャーシとアームは直結されているので、シャーシ全体に行き渡りった振動はアームの針に集約してしまい、その結果、振動として伝わるのではないかと想定しました。
それで、モータ由来の振動を少しでも低減するため、モータの駆動位置の変更を検討。シャーシマウントからシャーシ外マウントに変更しました。
AddーMoter.jpg
この変更により、モータの振動ノイズがシャーシ→アーム→針に伝わり、音声信号として出力されるという状況は大きく改善されました。ただ、モータは同じものを同じように回しているので駆動音はそのままです。カバーを閉じればほとんど聞こえませんが、「聞こえる」ことを知っているので、どうしても聞いてしまうので、気にはなります。
改善されたとはいえ、負けているという状況は変わりません。多少良くなったかなという程度です。
Add_unit.jpg
モータ位置の変更にともない、プレーヤのトップボードを加工。ターンテーブルが乗るところなので、ぱっと見はわかりませんが、もう戻れなくなりました。

まあ、負けは負けだけど、そんなに悪くない負け方とは思います。

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 008 Thorens TD190改造:春の陣(負け戦)

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://something.under.jp/picnic/mt-tb.cgi/57

コメントする

このアーカイブについて

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。