k-wata: 2012年7月アーカイブ

デビュー三作目の本作。「英語になったニッポン小説」(1996年)の中で著者である青山南は、プリンストン在住時の村上春樹に対するインタビュー記事を引用し、村上春樹にとって処女作と第二作は(つまり「風の歌を聴け」と「1973年のピンボール」のことであるが)村上のなかでは「忘れてしまいたい」ものになっていると語る。そうした経緯もあり、アメリカにおける村上春樹のデビュー作は「羊をめぐる冒険」となっている、らしい。ちなみに、青山氏は「羊を」の英訳版はオリジナルの日本語版とは翻訳という技法を使うことで意識的に変えているとも指摘している。その1つとして氏が指摘するのが章タイトルの違いだ。例えば日本語版では、第一章が「1970/11/25」、第二章が「1978/7月」、第三章が「1978/9月」となっているのだが、それが英訳では第一章が「Prologue」、第二章は「July, Eight Years Later」、第三章が「September, Two Months Later」となっていると指摘する。そう、年号が消えているのだ。しかも年号の削除はタイトルだけに留まらない。文中の西暦表示もすべて消し去られているという。そしてこの違いにいて、翻訳時のいわゆる言い換えではなく、意図を持って行われた作業であって、それは翻訳を超えた何かだとも指摘している。

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